永井則吉 — 日常を極上にする
群馬県川場村で創業140年を迎える永井酒造の6代目蔵元、永井則吉。awa酒とヴィンテージ日本酒で、伝統と革新の両立から日本酒の価値創造に挑む。いい人生のキーワードは「日常を極上にする」。

「政治も日本酒も大嫌い」だった次男坊
僕は酒蔵の次男坊として生まれました。兄は長男だから「お前が継ぐんだ」と言われて育ち、次男の僕は「あんた出てきなさい」と親からずっと言われて育ったんです。でも、結局僕が6代目を継がせてもらっています。
父は、31歳から川場村の村長を務めた「名誉村民第1号」で、今でも役場の前に銅像が立っているような政治家でした。しかも、僕は日本酒が大嫌いだったんです。父の支持者の人たちが、昼間はシャキッとしているのに、夜にうちの酒を飲むとダメ親父になっている。母が忙しいから「お酌を手伝え」と言われて持っていくと絡まれるし、子ども心に「この日本酒は、親父たちをダメにする酒だ」と思っていました。だから「政治は嫌い、日本酒は嫌い」と、とにかくこの環境から脱出したい勢いでしたね。
ヨーロッパ一人旅で気づいた、30年先を行く父
大学で建築デザインを学ぶことになり、ヨーロッパへ一人でバックパック旅行に行きました。そこで初めて、父が川場村で「ヨーロッパ型の街づくり」をやっていることに気づいたんです。父は家族や会社をほったらかしにしていましたが、村のことに関しては、誰にも真似できないような街づくりをやっていた。何もない田舎で唯一光っていた農業を一流にし、そこに観光業を掛け合わせた「農業+観光」の集大成として「道の駅」を作った。固定相場制の時代にヨーロッパを視察していた、30年先を行く政治家だったんです。そのすごさに気づいて、「うわっ」と思いましたね。
その後、建築をやっている間に、父の兄(前社長)が「酒蔵を未来に向けて建て替える」と言い出し、そのプロジェクトチームに入ったのが家業に関わるきっかけでした。酒蔵の設計をしている間に、140年の歴史や先人たちが頑張ってくれたことを振り返った。「ただ箱を作るのではなく、未来に残す意味のある箱を作ろう」と考えたとき、初めてデザインする意味が腑に落ちたんです。
酒蔵は3分の1に減った。今だからこそチャンス
酒蔵全体で言うと、昭和50年頃には全国に約4,000あった酒蔵が、今は約1,300まで減ってしまっています。3分の1以下ですね。生産量も5分の1まで減り、輸出が伸びているとはいえ、まだ90%以上は国内で消費されている状態です。
でも、僕は今だからこそチャンスだと思っています。父の代と比べると売上は3倍になっていますが、さらに倍にしたい。あと10年から15年かかるとは思いますが、その絵は描けています。海外もそうですし、国内の人にももっと「日本の良さ」に気づいてほしいんです。日本酒には、日本人が大切にしてきた思想やカルチャーが凝縮されています。お米を大切にし、八百万の神を信仰し、自然と共存してきた歴史。麹菌という微生物の働きを経験値だけで使い分けてきた先人たちの知恵。そうした歴史や意義を含めた「体験」として、日本酒の価値を提供していきたいです。
「ヴィンテージ日本酒」という資産価値をつくる
日本酒を「SAKE」として世界に広めるために、「ヴィンテージ日本酒」の研究を30年続けてきました。ストックも含めて30年物をすべて持っています。ワインのヴィンテージのように、日本酒にも資産価値を持たせる制度を作りたいんです。また、シャンパンと同じように瓶内二次発酵させる「awa酒(スパークリング日本酒)」を広める一般社団法人「awa酒協会」も立ち上げました。ヴィンテージ日本酒も、世界のVIPに届くような価値あるものに進化させていきたいですね。
「日常を極上にする」と「行き当たりバッチリ」
いい人生を送るために大切にしているのは、「日常を極上にする」ことです。いかに日常を極上にするかに頭を使っています。今の積み重ねが未来を築くので、本当に毎日を大事にする。出会った人や起きたことに感謝する。これを日々実践しています。朝起きたら、ペンで、昨日の出来事や出会った人への感謝をノートに書く。書き始めると頭も動くし、プラスの感情から1日をスタートできるのですごくいいですよ。
あと、「行き当たりばったり」ではなく「行き当たりバッチリ」という言葉を大切にしていました。予期しない出来事が起きたときでも、受け止め方次第で「バッチリ」だと思える。事象に対するポジティブな解釈の技術は、人生においてすごく大事だと思っています。
永井則吉
永井酒造株式会社 代表取締役社長。群馬県川場村にて1886年より続く老舗酒蔵の6代目蔵元。大学で建築デザインを学び、酒蔵の建て替えプロジェクトを機に家業へ参画。スパークリング日本酒「awa酒」の確立を目指す一般社団法人awa酒協会の初代理事長を務めるほか、30年に及ぶ研究から「ヴィンテージ日本酒」の資産価値創造に挑む。日本の自然観や歴史、風土の美しさを表現した「水芭蕉(MIZUBASHO)」ブランドを通じ、日本酒のグローバル化と新たな体験価値の提供を牽引している
永井酒造を訪ねたWellnessコミュニティのSAKEツアーの様子はこちらの記事へ
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