水源の森と雪ほたか — SAKE Journey 川場
2026年7月、群馬県川場村。定員10名の日帰りツアーで永井酒造を訪ねた。水源の森から旧蔵のランチまで、水、米、空間、食の順に土地を巡る。

群馬県川場村の酒蔵、永井酒造を一日かけて巡るツアー。酒造りの水が生まれる森に始まり、米の田んぼ、テイスティングルーム、旧蔵でのランチへと、一杯の酒ができるまでの土地を順にたどる行程である。
苔むした岩の上で、AWA酒のボトルが氷に沈めて冷やされていた。群馬県川場村、永井酒造の水源の森である。一日はまず、山から流れる水をその場ですくって飲むことから始まった。澄んでいて、うまい。この蔵では自ら水行を行うほど、水を大切に扱っているという。その沢の音を聞きながら、一行はAWA酒のグラスを合わせた。
掲げられたAWA酒は「MIZUBASHO PURE」。伝統的な日本酒の製法に瓶内二次発酵を取り入れたスパークリング清酒で、構想から10年、数百回の試行錯誤を経て2008年に生まれた。チェリーやライチを思わせる香味と、シルキーな泡。その仕込みを支えるのが、いま目の前を流れる尾瀬の大自然の水である。



雪ほたかの田んぼから、SHINKAへ
水の次は米である。7月の「雪ほたか」の田んぼは一面の緑で、稲の向こうに山並みと集落が見えた。永井酒造が理念に掲げるのは、日本の先人たちが大切にしてきた自然と米の文化、そこから醸し出される日本酒である。


続いて向かった「SHINKA」は2023年にできた木の建築で、窓の外にはいま見てきた田園が広がる。ここでしか飲めない「ラボSAKE」など計4種類を味わった。「開放感のある景色の中でいただくお酒は格別」と、参加した一人は言う。



「財産ではなく、自由を与えられた」
参加者の一人が一番印象的だったと振り返るのは、酒そのものに加えて、社長の永井則吉自身の話だった。もともと目指していたのは建築デザイナーで、末っ子だったこともあり「財産ではなく自由を与えられた」。建物づくりをきっかけに日本酒の世界に興味を持ち、「この仕事をしたい」と思うようになった。道中でそんな来歴が語られると、参加者は酒だけでなく、永井のものづくりや生き方そのものに聞き入っていた。

水、米、技の「水芭蕉」
その永井酒造の創業は1886年、明治19年である。以来この川場村で、酒を造り続けてきた。代表銘柄の「水芭蕉」は、水、米、技のすべてにこだわった酒だ。尾瀬の大自然の水に、兵庫県三木市別所地区で契約栽培される酒米「山田錦」、そして創業から継承されてきた技。口に含むとフワッと膨らみ、喉を通したあとにほのかな甘みが広がる。純米大吟醸では、ライチやパッションフルーツを思わせる華やかな香りが立つ。
旧蔵「古新館」のペアリングランチ
昼は旧蔵を改装した「古新館」へ移った。川場村で採れた野菜と和牛を使った料理に、計4種類の日本酒が合わせられる。木組みのアーチの下でグラスは重なり、水源地からランチまでに飲んだ酒はおおよそ10〜15杯。酒はそこで終わらず、帰りの道の駅で約5人で1本、新幹線でさらに4人で1本半が空いた。


このツアーの肝は順序だと思う、と参加者の一人は言う。山で水の大切さとうまさを知り、道中で造り手の想いと歴史を聞き、田んぼを実際に見て、SHINKAの空間に触れ、その話と景色を思い出しながら呑み、最後に川場村そのものを食と酒で楽しむ。自然の恵み、造り手の熱量、酒へのこだわり、村の魅力。どれか一つではなく、その並びが効いている。
その並びの一番はじめにあったものを、参加者はもう知っている。岩の上で冷えていた一本と、手のひらですくった一口の水である。

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