鈴木英雄 × 中田航太郎 — 全員同じメニューの検診を終わらせる
胃がん検診の発見率は、バリウムと内視鏡で約3倍違う。筑波大学附属病院で予防医学を率いた鈴木英雄が、全員同じメニューの検診を終わらせる構想を中田航太郎と語った。

鈴木英雄は筑波大学医学専門学群を1994年に卒業し、米国テキサス大学M.D.アンダーソンがんセンター客員助手、筑波大学医学医療系准教授を経て、つくば予防医学研究センターの立ち上げに関わり、2021年から同センター部長(病院教授)を務めた消化器内科医だ。「胃がん・大腸がんで命を落とす人をゼロにする」というミッションを掲げ、2023年7月にはつくば消化器・内視鏡クリニックを開いている。この対談では、がん検診の個別化をめぐって中田航太郎と語り合った。
発見率3倍の差
鈴木 厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると日本の検診受診率は、残念ながら目標の50%に届いていないのが現状です。そして、それ以上に問題なのは「受けている検査の内容」です。例えば胃がん検診。多くの自治体や職域検診では、いまだに胃X線検査(バリウム)が主流です。胃X線のがん発見率は0.052%、内視鏡だと0.17%、その差は約3倍です。
鈴木 韓国の大規模な研究データでも、内視鏡検診を受けた群は、受けなかった群に比べて胃がん死亡率が47%減少したという明確なエビデンスがあります。一方で、X線検診ではそこまでの有意な差が出にくい。
中田 3倍の差は衝撃的ですね。ウェルネスの会員にも「バリウムではなく内視鏡を」と強く推奨していますが、やはりエビデンスレベルでもこれだけの差があるんですね。

鈴木 日本では画一的に「40歳になったらバリウム」「会社員なら年1回」と決められています。ピロリ菌もいない健康な胃の人に毎年バリウムを飲ませて被曝させる。これにはメリットがほとんどありません。
検診で見つかるか、症状が出てからか
鈴木 もうひとつ重要なのが、どの段階で見つけるかです。胃がんの5年相対生存率は、検診で見つかった場合96.1%、症状が出てから受診した場合は55.2%です。検診で早期に見つかれば、96%以上の方が助かります。お腹を切らずに、内視鏡治療だけで完治して帰宅できることも多い。しかし「食欲がない」「胃が痛い」といった自覚症状が出てから受診すると、生存率は50%台まで落ちてしまいます。大腸がんでも同様で、検診98.6%に対し、有症状では59.5%です。
中田 まさに「早期発見」が生死を分けますね。それなのに、なぜ多くの人が適切な検診を受けないのでしょうか。
鈴木 がん検診を受けない理由の多くは「面倒だから」「忙しくて時間がないから」です。また、「がん検診は無意味だ」「受けると早死にする」といった極端な書籍や情報を信じてしまう方も一定数います。しかし、科学的なデータは嘘をつきません。適切な検査を適切なタイミングで受けることが、確実に命を守るのです。
中田 「症状がないから健康」ではないんですよね。がんは初期段階では無症状ですから。「痛くないから大丈夫」と思って検診をサボり、症状が出たときには手遅れ……という経営者の方を、私もたくさん見てきました。あの悲劇は、正しい知識があれば防げたはずなんです。
全員同じメニューを終わらせる
中田 先生はご自身のクリニックだけでなく、もっと大きな視点で予防医療を変えようとされていますよね。
鈴木 今の日本の検診は、全員が同じメニューになっています。本来は人によってリスクがまったく違う。遺伝的にがんになりやすい家系なのか。喫煙歴や飲酒量は。ピロリ菌はいるか。それを総合的に判断して、「あなたは胃がんリスクが高いから内視鏡を重点的に」「あなたは遺伝子リスクがあるから、通常の検診にはないこの項目を追加しよう」とカスタマイズするのが、本来あるべき予防医療の姿です。
中田 まさに「個別化」ですね。
私が目指しているのは、個別化がん検診の実現です。
鈴木英雄
鈴木 現在は、住民検診や職域検診など制度がバラバラで、個人のリスクに応じた検査が十分にできていません。だからこそ、私個人のクリニックだけで終わらせるのではなく、志を同じくする全国の内視鏡クリニックとネットワークを作って、国内最高水準の検診を広めていきたいと考えています。ITやテクノロジーをフル活用して、データ連携やAI解析を行うイメージですね。

鈴木 そういう意味で、中田先生のウェルネスのサービスには注目していたんですよ。
中田 本当ですか? ありがとうございます。
鈴木 一人ひとりのデータに基づいて個別化している。これは非常に先進的ですし、間違いなく医療はそういう未来になっていくと思います。
中田 画一的な「とりあえずバリウム」という時代を終わらせ、一人ひとりのリスクに合わせた検診が当たり前になっていくべきですね。
鈴木 ぜひ。ともに日本の予防医療のスタンダードを変えていきましょう。
「胃がんは減っている」と言われるが、高齢化に伴い大腸がんのリスクは依然として高い。鈴木のクリニックでは鎮静剤を使い、患者が眠っている間に内視鏡検査を済ませる。大学病院で炎症性腸疾患の専門治療と予防医療の両方を牽引してきた鈴木が、アカデミアを離れて開業に踏み切った理由は、冒頭のミッションに尽きる——検査室のなかで個別化を実践しながら、その仕組みを全国へ広げようとしている。
鈴木 英雄(すずき ひでお)
医療法人桐雄会 つくば消化器・内視鏡クリニック 理事長
1994年筑波大学医学専門学群卒業。米国テキサス大学M.D.アンダーソンがんセンター客員助手、筑波大学医学医療系准教授などを経て、2021年より筑波大学附属病院つくば予防医学研究センター部長(病院教授)を務めた。大学病院では炎症性腸疾患の専門治療や予防医療の最前線を牽引してきたが、「胃がん・大腸がんで命を落とす人をゼロにする」というミッションを実現するため、2023年7月に「つくば消化器・内視鏡クリニック」を開設。長年のアカデミアでの知見と高度な内視鏡技術を活かし、個人のリスクに合わせた「個別化がん検診」の社会実装に挑んでいる。
後編 「中田航太郎 × 鈴木英雄 — 皆保険が予防を遠ざけるとき」
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