橋本真希 × 中田航太郎 —まなざしは、内と外を行き来する
Rain Treeの橋本真希が、展覧会『雨の日の星空』で油彩画を出展する。中田航太郎と、表現と予防医療について話した。二つをつなぐのは「まなざし」だった。
東京・南青山で8月に開かれる展覧会『雨の日の星空』。アイドルグループ「Rain Tree」の橋本真希と、東京藝術大学の学生9名による合同展だ。異なる領域に立つ表現者たちが、「まなざし」というテーマのもとに油彩画を並べる。その開催を前に、橋本が中田を訪ねた。アートと予防医療、畑の違う二人が「まなざし」という一語を挟んで向かい合う。

きっかけは、藝大生「あめ」の展示だった
中田 アートとアイドルのコラボレーションと聞きました。そもそも、どんなきっかけで始まったんですか?
橋本 きっかけは、スタッフが東京藝術大学の文化祭に足を運んだことでした。そこですごい人だかりができている展示があって。それが、今回参加してくれている藝大生の「あめ」さんの作品だったんです。
中田 人だかりですか。何がそこまで人を惹きつけていたんでしょう。
橋本 あめさんは、来てくれた方に自分から作品の説明をしながら展示するスタイルなんです。「正面から見るとこうだけど、こっちから見るとまた違って見えます」といったかたちで。パールの入った画材を使っているとか、こだわりを直接伝えることで、見に来た方がもっと作品に興味を持ってくれるように工夫されていて。
中田 作り手自身が熱量を持ってファンをつくっていく。すごくイノベーティブですね。どれだけいい絵を描いても、いい曲を作っても、知ってもらわなければ広がらないですから。
橋本 そうなんです。あめさんが、今回一緒に展示する他の藝大生の方々にも声をかけてくれて、このプロジェクトが形になりました。作品づくりでも、見せ方でも、すごく勉強になる存在です。

見えない雲の中で、星空を信じる
中田 橋本さんご自身も、今回は1人の「作家」として油彩画を出展されるんですよね。
橋本 はい。幼少期から絵を描くのが好きで、中学生の頃は友達とアニメや漫画のイラストを描いていました。専門学校のデッサンの授業で初めて静物画を描いて、そこから今の作風に近いものを描くようになりました。実は、アイドルという仕事とアーティストの皆さんには、共通点があると感じているんです。
中田 どういうところでしょう。
橋本 アイドルは、お客さんに見てもらう前に、見えないところで歌やダンスを練習して準備する過程がありますよね。アーティストの方も、1対1でキャンバスと向き合う時間がある。どちらも、見えない雲の中や雨の日でも、その先にある星空を信じて努力する。そこがすごく似ているなと。
中田 だから『雨の日の星空』というテーマなんですね。
橋本 私自身、アイドルとしてデビューできるか分からないまま、1年間活動していた時期がありました。何も未来が見えない中でも、希望を捨てずに夢を見て頑張ってきた。今回のテーマと重なる部分が多いんです。
1万枚の写真と、見えない対話
中田 藝大生の制作過程を知って、驚いたエピソードはありますか。
橋本 田辺朔葉さんという方がいて、実在するモデルさんの写真を1万枚くらい撮って、肌の質感まで徹底的に見てから描くそうです。さらにインタビューをして、その人の本質や中身まで絵に投影する。だからこそ、引き込まれる絵が描けるんだなと感じました。
中田 それはすごいですね。いま一緒にプロジェクトをやっているアーティストの江上越さんも、ポートレートを描く前にものすごい量のインタビューをして、その人の人生のモチベーションを聞いてから表現するそうです。外見を模写するだけでなく、思想や哲学を描く。背景を知ると見え方が変わって、アートの深みが増しますよね。
橋本 今回私も、「服と人との間にある目に見えない対話」を描きたいと思って制作しています。私の描いた下絵を見たあめさんが、「衣装に込められた想いと心が共鳴する瞬間のまなざしが表れている」と解釈してくれて。作品は完成した時点で鑑賞者のものでもあると思っているので、そういう対話が生まれるのが、とても嬉しいです。

アートと医療の、思いがけない交差点
中田 ステートメントにも「まなざし」というキーワードがありますね。アイドルは、常に他者からの「まなざし」を受ける仕事でもある。ご自身の表現では、いかがですか。
橋本 ファンの方から「こういうところがいいよね」と伝えてもらえることがあって。自分では作り込んだ表情がいいと思っていても、「その時の感情に合わせた素直な表情の方がいい」と言われたり。客観的な意見をもらうと、「自分ってこう見えているんだ」と新しい発見があります。自分の中の主観と、周りの客観のバランスが大事だなと感じています。
中田 その主観と客観のまなざしを行き来することは、実は予防医療にも同じことが言えます。
橋本 医療にもですか。
中田 はい。たとえば「朝まで飲みに行けるし、自分は健康だ」と主観だけで思い込んでいる人は、客観的に自分を見直さないので、後で病気に倒れて後悔することがある。逆に、データや数値だけに囚われても、何のために健康でいるのか分からなくなってしまう。
橋本 確かにそうですね。
中田 日本でよく「中庸」と言いますが、自分の思想や感性を大事にしながら、それだけに依存せず、客観的なデータや他者の視点も取り入れる。このバランス感覚が大事なんです。長く表現を続けるためにも、自分自身に客観的なまなざしを向けることは欠かせないと思います。

AI時代の「人間らしさ」とファンダム
中田 いまはAIが発達して、あらゆるものが大量生産できる時代です。だからこそ、機能的な価値だけではモノは売れず、人間らしさや深い思想に価値が移ってきていると感じます。
橋本 活動していても、最初は見た目で興味を持ってもらえても、長く応援してくれる方は、中身や人間性を知って好きになってくれる方が多いですね。
中田 医療も同じです。僕らのサービスも、ある意味でファンダムのようなものを形成しています。「問題があったら行く場所」としての病院ではなく、一緒にサウナに入って汗をかくような共通の体験を通じて、ドクター自身のファンになってもらう。会社として「サイエンスとヒューマニティ」を掲げていて、科学的な医学を提供しつつ、人間らしさも大事にする。アートやアイドルの活動と、全く同じ構造だと思います。
橋本 今回は、会場内の全作品の解説を私が「音声ガイド」として担当します。他の作家さんの背景や物語を私の声で届けることで、作品への理解が深まって、その人の人間性も伝わるんじゃないかと思っていて。
中田 成果物だけでなく、その過程やナラティブを知ると、一気にファンになりますからね。
穏やかな気持ちになれる絵を
中田 最後に、橋本さんご自身の絵は、どんな仕上がりですか。
橋本 歌やダンスは見ていただく機会がありましたが、自分の絵を見てもらうのは初めてなので、ドキドキしています。見てくれた方が引き込まれて、優しい気持ちや穏やかな気持ちになれる作品になっていればいいなと。空間が素敵になるような、心の支えになってくれそうな絵になっていると思います。
中田 アートも医療も、答えのないものを問い続ける力が求められます。この展覧会が、訪れた方にとって、自分の人生観と向き合うきっかけになれば嬉しいですね。
今までの人生や、アイドルの活動の中で感じてきたものを、作品として消化して投影できたらと思っています。あまり美術を見たことがない方も、深く考えずに見に来てもらえたら嬉しいです。
橋本真希

橋本真希
秋元康総合プロデュースのアイドルグループ「Rain Tree」メンバー。2025年1月29日にキングレコードよりメジャーデビュー。1998年4月30日生まれ、埼玉県出身。趣味は映画鑑賞、絵を描くこと、洋服を見ること。
展覧会『雨の日の星空』
会期:2026年8月18日(火)〜8月28日(金) 12:00~19:00(最終日は18:00まで)
会場:Gallery Blue 3143(東京都港区南青山3-14-3 1F・2F)
入場:無料・予約不要
公式サイト:https://rtgeidaipj.github.io
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