Longevity · 予防医療

江上越 × 中田航太郎 — 何のために生きているか

本質的に考え行動する人々を讃えるThink Essential Projectが始動した。その記念対談。アートと医療、異なる現場で問い続けてきたことは、同じ一つの問いだった。

2026年7月「Think Essential Project」が始動した。仕事に熱狂しながらも、自分の人生全体と向き合い続ける人を可視化し、讃えるプロジェクト。その第一弾として、国際的に活躍するアーティスト・江上越とのコラボレーションを発表。江上がWellnessのロゴ原画を手がけた。企業ロゴを制作するのは、江上にとって初めての試みだった。プロジェクト発動の記念対談が行われた。

江上越と中田航太郎

成功の先に、問いがない

中田 今日はThink Essential Projectの始動を記念した対談ということで、江上さんとお話しできることをとても楽しみにしていました。まず僕がこのプロジェクトを始めた理由から話すと、スティーブ・ジョブズへの問いから始まっているんです。AppleのThink Differentというキャンペーンがありましたよね。人と違う考え方をして世の中を変えてきた人たちを讃えた。でも彼自身は56歳で亡くなってしまった。自分が唯一読み忘れた分野が健康だったという話が残っているともいわれています。

江上 仕事だけに命を注いで、最後に大切なものに気づく、という話ですね。

中田 僕のクライアントさんを見ていても共通していてすごいなと思う特徴が一つあって、死を意識しているんですよ。20代30代の若い方でも、自分は何歳くらいで死ぬだろう、と逆算して今をどう生きるかを考えている。ほとんどの人は今の自分と今の周りの環境にだけ目を向けていますが、いろんなところに思考を巡らせている人は、戦略も磨かれていくし、豊かな人生を送れる確率も上がると思っています。仕事だけをひたすらやればいいわけではないということに、最後の時に初めて気づく人がすごく多い。その「防ぎえた後悔」をなくしたいというのが、このプロジェクトの根本にある思いです。

江上 本物のアーティストって、一生かけて自分の中のものを探求し続けられると思うんですよね。逆算しているかどうかは分からないけれど、そういう信念みたいなものは、手の届く遠くにあるのかな、と思います。

向かい合って対話する江上越と中田航太郎

アートが医療になるとき

中田 江上さんは今、杏林大学医学部の客員教授として、精神疾患の患者さんへのアートセラピーもされていますよね。具体的にはどんなことをやっているんですか?

江上 精神神経科に所属していて、患者さんはうつ病の方などが多いです。絵を見るだけではなく、実際に描いたり、立体のものを作ったりもします。ただ、患者さんによって症状がそれぞれ違うので、単に自由に描いてくださいが必ずしも良いわけじゃなくて。テーマを絞った方が落ち着く方もいれば、縛られたくない、自由がいいという方もいる。その症状に合わせて変えていくことが大事で、そのバランスが難しいですね。達成感や充実感が、プラスに作用していくのかな、と感じています。

中田 絵を描くとき、目の前のものにまず集中しますよね。そのアテンションが向くこと自体が、ネガティブな思考の反芻を止める手段になります。うつ病のメカニズムの一つは、嫌な出来事をループして考え続けることで脳の扁桃体が過活性化してしまうことなので、集中を促すこと自体にすごく価値があると思いました。僕は大学時代にマインドフルネスの研究をしていたんですが、実は昔ものすごく上がり症で、人前で全然話せなかったんですよ。

江上 本当ですか?

中田 はい。ある時、控室でタイルの数を数えていたら緊張が和らいだ、という体験があって、そこから脳の仕組みや自律神経に興味を持ち始めたんです。アートが集中のツールとして機能するというのはその延長線上にあって、予防医療との接点をすごく感じています。カナダでは美術館に行くことを処方する事例もありますし、オフィスに好きな絵を飾ることで生産性が上がるという研究も出てきている。日本ではまだまだこれからですよね。

江上 そうですね。やっぱり日本にはまだあまりいないですよね、その分野の専門家が。

向かい合って座る対談の全景

答えがないところに、人間の価値がある

中田 今、AIの進化がすごくて、過去のデータと統計から正しそうな答えを出す力は、もう確実に人間を超えている。そうなると、マーケットインのサービスの価値がなくなるし、寿命がどんどん短くなってくる。100年後、500年後も価値のある本質的なものを生み出せるかどうかが、これからすごく問われると思っています。

江上 アートの世界でも同じことを感じてきました。なんとなく売れやすい絵というのは分かるんです。でもそれって絶対500年後には残っていないし、正直、何かを世に生み出したとも言えない。本当に世の中に残るのは、今ある常識を破っていく力を持ったものだと思っています。

中田 僕がこれを実感したのは、医療現場を見たときなんです。医学部に入るような優秀な人たちって、決まった答えをいかに再現するかの訓練を積んでいる。答えのないものを疑い続けることは、逆にすごくストレッチなんですよ。でもだからこそ、既存の医療の枠の外から「病気がないこと」ではなく「後悔なく豊かに生きること」をゴールにした医療をゼロから考えることができた。医療界では結構新しい価値観だと思っています。

江上 その、問い続けるということが大事なんですよね。自分も父親の言葉がずっと響いていて、「天才とは自分の才能に気づくことだ」と言われたんです。みんな、ある意味天才なんだっていう感覚がすごくあって。

中田 いい言葉ですね。みんな当たり前のルールとして受け取っていることに対して、なぜそうなったかを考える人はほとんどいない。そういう問いを日頃やっているかどうかで、思考力は全然変わってくると思っています。

床に広げた虹色の原画を前に、身をかがめて指し示す江上越

コミュニケーションの本質

中田 江上さんの作品のテーマは、コミュニケーションと人間なんですよね。その原点はどこにあるんでしょうか?

江上 フランス、ドイツ、アメリカ、中国といろんな国で生活してきて、言語の壁にぶつかることがたくさんあったんです。最初はそれが悩みで、伝わらないことが葛藤だった。でもだんだん、例えば香港のタクシーで日本語で話しながらもニコニコ伝わっていたり、逆に言葉が分かっても授業で先生の話に笑えないとか、そういう経験が積み重なって。言語の奥にある文化的な背景や、非言語のコミュニケーションって何なんだろう、という問いが自分の中心にあるんだと気づいていきました。通じることだけがコミュニケーションじゃなくて、通じないことの中にも本質が見えることがある。自分はずっとその感覚を作品で表現してきました。

中田 医療現場でも全く同じ構造のミスコミュニケーションが起きているんです。お医者さんが言うのは「データ上は問題ありません」。でも患者さんが求めているのは、心地よく元気に生きることだったりする。医学的には正しいことを言っているのに、ゴール設計がずれているから伝わらない。だから僕らは、その人の人生がどうなったら一番いい状態なのか、という答えのない問いから始めるんです。AIが会話をこなせる時代に、人間に残るのは対話だと思っていて。

答えのないことをダラダラと話し続ける。ひたすら問い続ける。それが人間の対話の力だと思っています。

中田

描かれることは、自分と出会うことだ

中田 江上さんといえば肖像画のシリーズですが、描きたいと思う人間像って、一言で言うとどんな人ですか?

江上 オーラが見える人、でしょうか。直感的に描きたいと思う感覚で、その人の佇まいや雰囲気を感じた時に来るものがあるんです。会って話す時に感じることが多くて。インタビューしながら、その人の子どもの頃の話とか、忘れていたこととか、ちょっと懺悔みたいなことも出てきたりして、その人の本質を掘り下げていく過程が自分にとってすごく大事で。みなさん最後に、「自分とこんなに向き合ったのは初めてだ」と言いますね。

中田 それはすごい。自分の肖像画を持つことは、毎日自分と向き合うことになりますよね。

江上 鏡に自分は映るけれど、誰かがその人を認識して理解して描いたものって、また別の何かがあると思うんです。もう一人の自分に出会う感覚、という方もいました。

虹色の筆致で描かれたWellnessの十字マークと「Think Essential.」のロゴ。江上越による原画

どの色も、美しく輝く

中田 今回、Think Essential Projectのロゴ原画をお願いして、あの虹色のデザインが生まれましたよね。どういう思いが込められているんですか?

江上 コミュニケーションをテーマに作り続けてきた中で、伝わらないもどかしさが、だんだんポジティブに見えてきた瞬間があって。平行線って、交わらない。でも、そこにあるそれぞれの色はみんな美しく輝いている。

どの色も肯定したいという気持ちがあって、それが虹色に繋がりました。

江上

中田 まさに多様性ですよね。僕らが第3世代の医療と呼んでいるものも、画一的なソリューションではなく、その人のゴール設計に合わせてパーソナライズしていくという考え方で、すごく重なる。今回のコラボレーションは、その思想を見える形にする第一歩だと思っています。本質的に考え、自分の人生と向き合い続ける人を、一人でも増やしていく。江上さんとこのプロジェクトを一緒に歩んでいけることを楽しみにしています。

江上 Think Essential Projectが問うことは、私が追いかけてきたことと同じだと感じています。このプロジェクトに関われることを、心から嬉しく思っています。

向き合って語る2人

期間限定、特別な空間

対談から数週間後、WellnessのDr.'s Officeで小さな会が開かれた。江上越の作品を間近に感じながら、参加者たちが言葉を交わした。白い壁に作品がある空間で、会話がほどけていく。それは、この日の対談を体現するような夜だった。

江上越の作品と、光るWellnessの十字を背に、Dr.'s Officeに集まった参加者たちの集合写真

江上の作品は現在、Wellness Dr.'s Officeにて期間限定で展示されている。

展示期間:2026年12月31日まで

展示場所:Wellness Dr.'s Office(住所非公開)

入場方法:招待制。Wellness Membership会員、指定のインビテーションをお持ちの方および同行者の方。

※一般公開は行わないクローズドな企画展です

タブレットを手元に、身を寄せて語り合う江上越と中田航太郎

江上越(Etsu Egami)

アーティスト・杏林大学医学部客員教授。1994年、千葉県生まれ。日本、アメリカ、スイス、中国を拠点に国際的に活動する現代アーティスト。2021年、Forbes Asia 30 Under 30を最年少アーティストとして受賞。Diorへの作品収蔵、König Galerie(ドイツ)での個展「MELODY」、サンフランシスコ・アジア美術館への出展ほか、国内外で精力的に活動。

Think Essential Projectとは>>

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