井崎英典 — 5年後を語らず、使命に生きる
第15代ワールドバリスタチャンピオンで、株式会社BrewPeace代表の井崎英典。有名企業の社長に5年後のビジョンを問われ、0.5秒で「分かりません」と答えた。据えているのはビジョンではなく、バリスタをプロフェッショナルな職業にするという使命だという。

高校中退から、世界一のバリスタへ
僕は高校を中退していまして、やることもなく鳶職や何でも屋をやっていたんです。このまま生きていくのかなと思っていた矢先に、親父がやっている「ハニー珈琲」という福岡のコーヒー屋を手伝うことになったのが始まりです。高校生のときは勉強に興味がもてませんでしたが、コーヒーに出会い、やっぱり勉強はした方がいいなと通信制の高校に戻って勉強し、イギリスに行ったりして英語も話せるようになりました。
高校時代は福岡から出たこともなかったのに、いまでは日本人より海外の友達の方が多いですね。コーヒーは世界中で飲まれているので、世界中に友達ができます。
5年後のビジョンは、0.5秒で「分かりません」
僕は、野望とか夢とか、あまり考えないタイプなんです。独立したタイミングで、誰もが知っているような有名企業の社長と話す機会があり、「お前のビジョンは何だ? 5年後、10年後どうありたいんだ?」と聞かれたことがありました。そのとき僕は0.5秒で「分かりません」と答えて、めちゃくちゃ説教されました。でも、僕は明日が分からないような人生を生きてきたので、5年後にどうありたいかを考えるよりも、今日後悔しない生き方を続けることの方が大事だと思っているんです。
だから、ビジョンよりも「なぜこの仕事をするのか」という自分の使命を明確にして、その使命に基づいて日々を全力で生きていく。そうすれば、打算的にならずに行き着くべき先に行き着くと思っています。僕が海外の第一線でいまでも信頼されている理由は、一切ブレないからです。自分の意思決定のすべてが使命に基づいているから、周りからどう思われようとブレないんです。
コーヒー1杯500円の世界を変える
僕の使命は、端的に言うと「バリスタという職業を、社会的にプロフェッショナルな職業にすること」です。これには原体験があります。
有名な外資系コンサルティング会社のディレクターから「お前みたいな泥臭いやつも必要だ」とオファーをいただいたんです。そのとき提示された給与と、僕がバリスタとしてもらう初任給を比べたら、バリスタの給料は3分の1で、愕然としました。人間としての能力は同じなのに、どんなに技術を磨いても「コーヒー1杯500円の世界」に縛られて、適正にお金をもらえる仕組みが整っていないんです。
だから僕自身がまずは稼げる個人になり、次はバリスタが一流のシェフと同じように稼いでいける仕組みを作る。子どもが「海外に留学したい」と言ったときに、キャリアチェンジしなくても気持ちよく「行ってこい」と言えるような職業にしたい。それが僕の使命です。
付加価値をどう生み出すかというと、コーヒーを「ただカフェインを摂るための機能性飲料」として見ないことです。コーヒーを飲むことで得られる感情や体験、心の動きにフォーカスして編集していく。お腹を膨らませるだけなら完全栄養食を飲んでいればいいのに、人間はファインダイニングで美味しいワインを飲みたがりますよね。それと同じで、コーヒーも情緒的な体験価値に落とし込んでいくことが重要です。
健康は、無茶をするための「お作法」
僕はすごく自由に楽しむ生活をしていて、よく「そんなにラーメンばかり食べて大丈夫か?」と言われますが、「お前の10倍くらい気をつけてるから」と返しています。自分の浅知恵でやるのではなく、ちゃんと中田先生のようなプロに聞いて、「いまはこういう数値だから、ここを気をつけよう」と戦略を立てる。例えば血糖値を安定させるために分食をして、その前提の上で楽しむんです。
完全栄養食ばかり食べて、合理性を突き詰めたロボットみたいな人間にはなりたくないですから。僕は美味しいものを楽しむために、お作法としての健康管理をやっています。
スマホを遠ざけ、「思考する時間」を取り戻す
宮崎駿監督がドキュメンタリーの中で「脳の蓋を開ける」という表現をしていました。脳の蓋を開けると人間が壊れていくけれど、その先にしかいいものがない。人の心を掴むものを作る人は、みんな脳の蓋を開けているんじゃないかと思います。僕もコーヒーの世界で「ジブリ的にどんなコーヒーを編集できるか」という見方をするので、ピュアに創作力を高め続けることを大事にしています。実際に蓋が開いていたと感じるのは、世界チャンピオンになったときですね。あの時は寝ても覚めても大会の15分のことしか考えていなくて、世間と断絶していました。
ただ、最近は蓋を開けられていないと感じていて、最大の理由はスマホなんです。昔は「なんで自分の手にはシワがあるんだろう」と考えるような暇な時間があったのに、いまは時間が空いたらすぐInstagramやYouTubeを見てしまう。だから最近は、物理的に携帯を遠ざけて、自分が考えていることと向き合う「思考する時間」を取り戻すようにしています。
人と比べず、足るを知る
いい人生とは何かと聞かれたら、人と比べないことですね。SNS時代で、みんな他人と比較して卑屈になりがちですが、人と比較するのをやめて、自分の使命を持って自分らしく生きる。できないことはできないと割り切って、足るを知る。これに尽きると思います。
井崎英典
株式会社BrewPeace 代表取締役。第15代ワールドバリスタチャンピオン。高校中退後、実家の「ハニー珈琲」を手伝い始めたことをきっかけにバリスタの道へ。2014年、ワールドバリスタチャンピオンシップにてアジア人初の世界王者に輝く。独立後はコーヒーコンサルタントとしてグローバルチェーンのアジア進出を支援するほか、完全予約制のコーヒーおまかせコース「COCOON」を主宰。「バリスタをプロフェッショナルな職業にする」という使命のもと、コーヒーのラグジュアリーマーケットを牽引している。著書『世界一美味しいコーヒーの淹れ方』など。
Wellness
自分の体を、長く見ていくために。
気になる方は、まずはカウンセリングでご相談ください。


