月80時間の残業から、後悔しない人生へ—4つの現場を持つパーソナルドクター
消化器内科医・松田悠司は、子どもの誕生を機に医局を離れた。定期検査で防げたはずの手遅れの大腸がんを診てきた経験が、パーソナルドクターへの転身につながる。

週6日の勤務に、週2日から3日の待機が重なり、月の残業は80時間を超えていた。消化器内科医だった松田悠司の医局時代は、朝から晩まで内視鏡を握り続ける日々の繰り返しだった。
手を止めるきっかけになったのは、子どもが生まれたことだ。日々の成長に関われないまま時間だけが過ぎていく。約1年をかけて退局し、当直も待機もない民間病院へ移った。
このまま仕事中心の生活で果たして良い人生なのか、死ぬときに後悔しないか、と考えるようになりました。
松田悠司
臨床で繰り返し見てきた光景がある。大腸がんは定期的な検査で予防も早期発見もできるにもかかわらず、手遅れの状態で病院に来る人が後を絶たなかった。もっと手前の段階で何かできなかったのか。その悔しさは、医局を離れてからも松田のなかに残り続けていた。
キャリアに迷っていた時期、所属していたドクターコミュニティで「内科や全身を診られる先生を探している」という話に触れた。まだパーソナルドクターが数名しかいなかった頃の Wellness である。松田はむしろそこに惹かれたという。病院で待つのではなく、医師の側から手前に出ていく——臨床の現場で抱え続けてきた問いに、ようやく形が見えた瞬間だった。
答えは自分の中に
現在、松田は約40名の会員を担当している。週1日は消化器内科、週1.5日は訪問診療にあて、残りの週2.5日を産業医とパーソナルドクターの面談にあてる。当直と待機はゼロで、土日祝は完全に休みだ。
病気を治す知識はあっても、「病気にならないためにどう生活し、何を食べるか」については考えたことがなかった。パーソナルドクターとして会員と向き合うなかで、予防医学の書籍を一から読み漁るようになる。

面談で松田が使うのは、コーチングの手法だ。「今の生活の中で、どこまでなら取り組めそうですか」と問いかけると、返ってくるのは「一駅前で降りて歩く」「移動を自転車に変える」といった小さくて具体的な言葉になる。他人から指示されるのではなく、自分で決めて口に出すこと。それが行動を変える近道だと松田は言う。
一方で、データが悪いとわかっていても動かない会員に対しては、踏み込むこともある。
この数値が続くと、5年後10年後のあなたの命を保証できません。それでもいいですか?
松田悠司
そこまで言われてハッとしたのか、次の面談では見違えるように行動を変えた会員もいたという。

消化器内科、訪問診療、産業医——松田が複数の現場を持つのには理由がある。一つの現場で得た知見が、別の現場に返っていくからだ。産業医として企業に入り受診につなげることも予防の一環であり、訪問診療で見る医療現場の手触りが、パーソナルドクターとしての面談に厚みを加えている。
月80時間の残業を走り続けていた医師は、4年かけて今のバランスを築いた。面談室で松田が引き出すのは、医師の処方箋ではなく、本人の言葉だ。
松田悠司
旭丘高校、滋賀医科大学を卒業後、愛知県内の医療機関に消化器内科医として勤務。現在は、消化器内科医としての勤務のほか、訪問診療や産業医など複数の軸を掛け合わせるキャリアを確立。ポッドキャストを通じた発信やドクター向けコミュニティの運営など、幅広いフィールドで活躍中。
Wellness
To care for your body over the long term.
If you are interested, start with a counseling session.


